JR日豊本線 霧島神宮駅改修 / 鹿児島県霧島市
JR日豊本線 霧島神宮駅は、1965年に竣工したRC造・平屋建ての駅舎と斜面上にあるホームによって構成される。国宝・霧島神宮の最寄り駅であるが5km以上離れているため、利用されにくい現状がある。そこで経由地に留まらず、観光拠点にもなる目的地としての駅の在り方を模索した。
鹿児島を拠点とし建築を主軸に幅広く事業展開する企業IFOOが、JR九州の募集する九州DREAMSTATION(以下DS)にぎわいパートナーに認定され、霧島神宮駅前(えきぜん)界隈の活性化を目指すプロジェクト「光来(こうらい)」として民間主導で担う小さな街づくりの端緒となる駅舎改修を行った。九州DSとは、地域民間事業者が主体となりJR九州と協働し、駅舎の利活用を開くものである。「まつる」時を豊かにする駅をテーマに、待合/コンコース改修の他、駅舎内の遊休スペースに県内や九州各地のプロダクト・食品を扱う物販飲食スペース、地域交流ワークショップスペースが併設され、IFOOが企画/運営を行っている。また改札等の駅務の一部を受託し、JR九州と共同で駅運営も実施するモデルケースとなる。
建築は水戸岡鋭治氏が以前改修設計を行った既存外観を残しながら、ベンチ/外縁を設えて駅の賑わいを持続的に街へ透けさせた。内部は霧島界隈が古来より育んだ巨木や巨石という量塊が生む古代性と、街の産業として培われた製材技術という現代性が交錯する場とし、神宮の森の森厳を感じる新たな原風景となることを目指した。
地下通路/コンコースからは駅舎から遠く霧島神宮本殿に向けて北東へ延びる軸を臨み、御神柱と呼ぶ幅1100mm×厚み330mmとなる大太鼓柱を駅舎の中心に据え、その大きさからRC部の耐震要素を兼ねさせた。駅舎内、東から西へ巨木の柱群は木造フレームがつくる4m×3.5mグリッドに徐々に合わせ配置され、同時に丸太状態から4面製材へと段階的に製材を施し、製材過程とその技術を見せている。駅舎全体を覆う38×235による井桁状の天井木架構は、ワークショップスペース、コンコース、待合へと積層数を徐々に増やしながら、体感的な天井高さが低くなり、深い森から外界となる街や斜面庭へ視線を導く構成とした。
御神柱を含む一般流通しない大径木は、鹿児島大学の協力を得て同大農学部附属高隈演習林より新たに伐採した。近年、需要低下により適切な伐採時期を過ぎて大径木となった木々の活用研究の一環である。研究では伐採前に3Dスキャンを行い、事前に選木と3Dソフト上での活用方法の検討後に伐採手配を行うことができるプラットフォーム形成を視野に入れる。その後、最大クラスの帯ノコを持った霧島市内の製材所にて、伐採した大径丸太を設計者も立ち会い製材し、ミリ単位の高い技術を駆使した様々な製材柱が空間に独特の緊張感と大らかさを持たせている。
来訪者は繊細な天井木架構と大樹のような柱が林立する合間を縫い、神宮の森と人の営み、静けさと賑わいとが共存し享受される場として、駅前界隈の人々と共に訪れた人々にとって、心と記憶の奥深くに刻まれる風景となることを願っている。
■霧島神宮駅前(えきぜん)プロジェクト
光来(こうらい)
・コミュニティーデザイン・運営:IFOO ・設計監理
:駅舎/待合・コンコース・ショップ
建築:川口琢磨建築設計事務所
構造:坂田涼太郎構造設計事務所
・施工 :IFOO + ベガハウス
・木材調達/利用
:鹿児島大学工学部建築学科鷹野研究室
・ヴィジュアライズ
:VRIDGE DESIGN OFFICE 関口 翔
■構造:既存部 RC造/改修部:木造
規模:平屋建て
/ 233.59㎡(改修範囲外を含む)
用途:駅舎・飲食・セレクトショップ
・ワークショップスペース
(※化粧室等の一部はJR九州鹿児島支所担当)
写真 / 稲継泰介
ー受賞ー
・ウッドデザイン賞2024 万博 特別賞/国際博覧会担当大臣賞
・鉄道建築協会賞 作品部門 特別賞
ー掲載誌ー
・新建築 2024年10月号